気分は貴婦人
日に日に濃くなる緑の中にまだ櫻の花が咲いている。
花びらが1枚、細かく振動しながら落ちてくる。
少し強めに感じる風に飛ばされることもなく、ジャコウアゲハがひらひらと舞っている。
羽ばたくたびに、見えない震動が同心円状に広がっていく。
ツバメが真正面から突っ込んできて、ギリギリのところでサッと身を翻し飛び去っていく。
空気を切り裂くような軌跡があちこちにできる。
川沿い散歩を楽しんでいると、後ろからエンジン音。
エンジンの回転音がどんどん下がっていく。
草むらに身をよけ立ち止まる。
ゆっくりとすれ違いざまに「すみません」。
開いている窓から、若い男性ドライバーが丁寧に会釈してくれる。
反対方向から初老の男性が歩いてくる。
「こんにちは」と声をかけてくれる。
横断歩道で車をやり過ごそうと立ち止まっていると、
停車した車のフロントウインドウ越しから
年配の男性ドライバーが「どうぞ」と身振りで促してくれる。
真っ白なヒトツバタゴの花の宮殿で、
ピンクのツツジからお出ましを告げるファンファーレが鳴り響く。
紫のアヤメのドレスを身にまとった貴婦人が登場。
そんな気分だった。